建築家ル・コルビュジエ(1887‒1965)は活動の後半期において、建築の指揮のもとで絵画や彫刻をつなぐ試みを「諸芸術の綜合」と言い表しました。そしてそれ以上に、「諸芸術の綜合」とは統一、調和、普遍的法則の理想主義に導かれた彼の芸術観全体を示すスローガンでもありました。
ル・コルビュジエは近代建築の巨匠として世界的に知られていますが、視覚芸術の他分野においても革新をもたらしました。彼は生まれ育ったスイスのラ・ショー=ド=フォンの美術学校在学時より画才の頭角を現し、1918 年から約10 年間は画家のアメデ・オザンファンと創始した「構築と総合」の芸術である「ピュリスム」運動のもと絵を描きました。1930 年以降は、午前中は絵画に時間を費やし、午後は建築の仕事をしたといいます。本展は1930 年代以降に彼が手がけた絵画、彫刻、素描、タペストリーをご覧いただき、さらに彼が求め続けた新しい技術の芸術的利用にもスポットをあてます。建築では、ロンシャンの礼拝堂、無限成長博物館構想、チャンディガールの都市計画、1958 年ブリュッセル万国博覧会フィリップス館をとりあげます。後期の建築作品も併せてご紹介することで、はるかに伝統的な枠組みを超え、モダニズムの領域をも拡張したル・コルビュジエの円熟期の芸術観を明らかにいたします。
ル・コルビュジエは二度の世界大戦の非情を経験しました。揺れ動く時代から戦後の変遷の中で制作された、楽観的で歓喜に満ちたこれらの作品は、「住宅は住む機械」という彼のよく知られた言葉に集約される機能主義者のイメージを超えた、あらたな像を結びます。また、フェルナン・レジェ(1881-1955)、ジャン(ハンス)・アルプ(1886-1966)、カンディンスキー(1866-1944)といった同時代に活躍した先駆的な芸術家たちの作品を対峙させることで、当時の芸術潮流における彼の立ち位置も浮かび上がらせます。
展覧会は4章で構成し、国内外から借用した作品約90点(絵画、彫刻、素描、タペストリー、図面、模型、ルシアン・エルヴェの写真作品)他写真資料をご覧いただきます。ゲスト・キュレイターにドイツの美術史家ロバート・ヴォイチュツケ氏を迎え、20 世紀の革新的頭脳の創造の源泉に迫ります。
本展はル・コルビュジエ財団の協力のもと開催されます。
ル・コルビュジエ 《マッチ箱と二人の女》 1933年 森稔コレクション蔵 ※画像・写真の無断転載を禁じます
ル・コルビュジエ 《レア》 1931年 大成建設株式会社蔵 ※画像・写真の無断転載を禁じます
ロンシャンの礼拝堂(フランス、ロンシャン)1950年-55年 南西からの眺め 建築:ル・コルビュジエ 撮影:下田泰也、2016年 ※画像・写真の無断転載を禁じます
ルシアン・エルヴェ 《カップ・マルタンの海岸でのル・コルビュジエ》 1951年 大成建設株式会社蔵 ※画像・写真の無断転載を禁じます