エミリー・カーメ・ウングワレーは、アボリジニを代表する画家であると同時に、20世紀が生んだもっとも偉大な抽象画家の一人であるというべきでしょう。オーストラリア中央部の砂漠で生涯を送った彼女の絵画が示す驚くべき近代性は、西洋美術との接点がまったくなかったことを考えるなら、奇跡的にさえ思われます。
彼女は1970年代の後半にバティックの制作を始めますが、何といっても注目されるのは89年から96年に86歳で没するまでの8年間に描かれた3,4千点に及ぶアクリルの作品です。それらの画面はしばしばポロックらのアメリカ抽象表現主義との共通性を指摘されています。しかし最晩年の長さ8メートルに及ぶ大作《ビッグ・ヤム・ドリーミング》(1995年)のネット状のイメージが自生するヤムイモをモティーフにしているように、実のところはいずれも画家が住む土地の動植物などから広がった夢でもあるのです。砂漠が生んだ天才、エミリーの世界は私たちに大いなる感動をもたらすに違いありません。
(本展日本側監修:国立国際美術館館長 建畠 晢)
○エミリー・ウングワレーについて ○展示構成