重要文化財 《寸松庵色紙「ちはやふる」》 伝 紀貫之 一幅 平安時代 11世紀 京都国立博物館
《鏡山図》 伝 姉小路長隆画 伝 藤原家隆賛 一幅 鎌倉時代 13〜14世紀 根津美術館
重要文化財 《奥之細道図》(部分) 与謝蕪村 二巻のうち上巻 安永7年(1778) 京都国立博物館
《色絵龍田川文向付》 尾形乾山 六口 江戸時代 18世紀 公益財団法人阪急文化財団 逸翁美術館
※作品保護のため、会期中展示替あり。
古来、日本人にとって形のない感動や感情を、形のあるものとして表わす手段が和歌でありました。自らの思いを移り変わる自然やさまざまな物事に託し、その心を歌に表わしていたのです。ゆえに日本人は美しい風景を詠わずにはいられませんでした。
そうして繰り返し和歌に詠まれた土地には次第に特定のイメージが定着し、歌人の間で広く共有されていきました。そして、ついには実際の風景を知らなくとも、その土地のイメージを通して、自らの思いを表わすことができるまでになるのです。このように和歌によって特定のイメージが結びつけられた土地、それが今日に言う「歌枕」です。
こうして言わば日本人の心の風景となった歌枕は、その後美術とも深い関わりをもって展開します。実景以上に歌枕の詩的なイメージで描かれてきた名所絵や、歌枕の意匠で飾られたさまざまな工芸品などからは、歌枕が日本美術の内容を実に豊かにしてきたものである事に気づかされます。
しかし、和歌や古典が生活の中に根付いていない現代を生きる私たちにとって、歌枕はもはや共感することが難しいのではないでしょうか。この展覧会では、かつては誰もが思い浮かべることのできた日本人の心の風景、歌枕の世界をご紹介し、日本美術に込められたさまざまな思いを再び皆さまと共有することを試みます。