笹の川酒造

風の酒造


磐梯おろしの季節が過ぎ、やがて郡山には穏やかな時が訪れます。それは明和二年(一七六五年)に創業した「笹の川」の酒造りに似ています。長き歴史の中でこの蔵は、いくつもの時代の風雪に堪えてきました。大いなる自然が与えた試練、激動する世の中など、不断の努力と知恵で乗り越えていかねばなりません。厳しい冬が鍛えた酒のように、一段とたくましくなるために…。
初代・朝之丞宗友より十代を超えて、私たちは一つの想いに辿り着きました。厳しい季節を乗り越えてこそ、優しく、和やかな酒が生まれるということに。それは、ただ頑迷な考えを固守することではなく、毎日の当たり前の時 間 を生きている幸せを感じ取る、そんな酒造りでありたいと願うばかり。
私たちの酒造りに大切なのは、きっと、目には見えない風。澱みや濁りを吹き払うみちのくの北風。やわらかな薫りをのせて吹く春風。
「笹の川」の由来は、古来酒々(ささ)と呼ばれた日本酒。だから、どんなに強い風にも負けないしなやかな笹のような蔵元でありつづけます。

知恵の積み重ね。


創業以来二五〇年余を数える歴史「笹の川」。この蔵に受け継がれたもの、それは「人を幸せにする酒造り」なのです。蔵元の多くが祀る酒造りの神様、松尾様。二十一世紀も過ぎた今、神様もないだろうとお思いでしょう。しかし、古来よりの伝統を忘れぬこと、人智を超えた自然を敬うこと、その大切さが神様に祈る行為に現れます。神様に見守られつつ、良い酒になれと願う。蔵人はもとより、酒造りに関わるすべて人が心に思う。この酒は誰が飲むのだろうか、どんな酒席で楽しまれるのだろうかと心に描く。私たちはいつも、この蔵から送り出された酒が、どこかの誰かと出逢い、笑顔をもたらすことを願っています。

そこにある日常にこだわる。


俳諧に『不易流行』という言葉がありますが、酒造りにも重なる考え方です。豊かな生活が多様な価値観をもたらしても酒本来の姿は変わらない。それは辛口や甘口の好み、コクやキレなどの感覚を超えるもの。かつて洋酒一辺倒だった時代、昨今の焼酎ブームにも左右されません。
「笹の川」は、伝統を守りつつも、その場に立ち止まることなく、時代にふさわしい日本酒のあり方を見つめ、 前進していこうと思います。奇をてらうのではなく、毎日の生活の中で愛される日本酒とは何かを考えていたい。酵母や酒米を考え、選び抜き、時代に流されない価値に磨きをかけて。現代の人々の好みに合わせ、先人の知恵、古きよき習わしを尊んで。燗酒をゆっくりと口にする父親の背中、集う人の笑顔に満ちた祝い酒など、けっして忘れることのできない大事な日常がそこにあるのだと思うのです。

風土と知恵が磨きをかける。


「風の酒蔵」、笹の川をあらわすとき、この言葉が思い浮かびます。私たちは、風とともに生まれ風とともに生きる蔵元であると…。みちのくの酒蔵として「笹の川」は、比較的穏やかな自然環境に置かれています。そして、この風土ならではの仕込み方に、「風の酒蔵」の由来があります。磐梯山の影響を受ける環境は、笹の川の酒造りに大きな影響を与えています。磐梯山から猪苗代湖を渡って郡山盆地にとどく頃、その乾燥した寒風が、笹の川の酒造りに欠かせないものになるのです。
さらに、酒は郷土であることを大切に考えています。福島県産のお米にこだわり、つくりや仕上げを熟考することにより、様々なお米の味わいを発見していただけるよう努めています。

笹の川の考えること。


笹の川酒造は二百五十年を越えた長い年月に流されることなく、つねに酒造りというものと真摯に向きあってまいります。冠婚葬祭を含めこの地で欠くことのできない上撰・佳撰にもこれまで以上に洗練された仕上がりを目指してまいります。
さらに、当酒蔵の「最上級を追求したおいしさ」も当然のことながら創造してまいります。また、古式ゆかしき製法にも目を向け、製法や機材の復刻にも挑み、本来酒造りにかかせない、わすれられた何かを探し求め、効率だけを考えた製法では造れない、おいしさの広がりを探求し続けてまいります。
ただ、酔うだけがお酒ではありません。おいしいお酒はカラダもココロも癒すことができます。小振りのワイングラスに一杯。リラックスのための一杯。当酒蔵は飲まれる方それぞれが自分にあった楽しみ方を見つけていただけるよう、お手伝いをしていきたいと考えております。